経済・トレンド

IT化が進む今「デジタルと紙教材の共存」を選んだユーキャンの意図とは

2018/10/05 15:10


お話を伺ったユーキャン教育事業部事業部長で常務執行役員の冨山俊夫氏 (C)oricon ME inc.


 文部科学省が2020年までに、教室の無線LAN整備や、全ての教員のIT活用指導を目指すことを発表するなど、Education(教育)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた“EdTech(エドテック)”という新しい取り組みが話題となっている教育業界。通信講座においても、オンライン教材などの学習コンテンツや、それらを提供するプラットフォームなど、さまざまなサービスが次々と誕生している。いわば変革期といえる現在、オリコン顧客満足度ランキング通信講座FPにて総合1位を獲得したユーキャンは、デジタルだけに頼らず、紙教材をメインとした提供をしている。あえて“共存”する道を選んだ理由とは何か。

ユーキャンがメインという紙教材の様子

■ユーキャンが大切にする「紙教材とのバランス」

 国が率先して推し進めるEdTechには、多くの種類が存在している。「神授業、見放題。」をキャッチフレーズに小中高生向けの教育をサポートする「スタディサプリ」などの学習コンテンツや、教室内の先生と生徒でコミュニケーションがとれたり世界中の教師がコンテンツを共有できる教育向けのソーシャルプラットフォーム「Edmodo」などもそのひとつだ。さらには、インターネットで誰もが受講できることから世界中で注目を集めている大規模なオープン講座「MOOC(Massive Open Online Course)」など、大小さまざまな形で広がり始めている。

 そんななか同社は「現段階では、まだあくまでメインは紙教材で、デジタルは補完的な位置づけ」(常務執行役員 冨山俊夫氏/以下同)と語る。

 現在ユーキャンでは、メインテキストである紙教材のほか、パソコンやスマホで見ることができる動画解説やミニテスト、疑問などをメールにて質問できる学習サポートなどが受けられる。紙教材を廃止せず、デジタル一本化を推し進めない背景には、実際のユーザーの反応をもとにした考えがある。

 「2年くらい前に、タブレットを使うのみで完結するデジタルだけのプログラムを始めたことがあったのですが、紙教材だけのプログラムに比べて受講価格が安くなっているにも関わらず、2割程度の選択率しかなかったのです。そのため昨年からは、試験的に紙教材とデジタルの両方を併用して使えるようにしたところ、紙教材だけのときに比べて価格が高いにも関わらず、選択率は6割から7割となりました」。ユーザーはデジタルだけでも紙教材だけでもなく、デジタルと紙教材両方のプログラムを求めている、という結果が出たのだ。

 同社調査によるとデジタルだけのプログラムは、デジタルと紙教材のプログラムや紙教材だけのプログラムに比べ、着手率が低く、継続性も低いという結果も出ているという。冨山氏はこの結果を以下のように分析する。「学ぶのはやはり生身の人間ですし、学校と違って1人で学ぶ通信講座は、自助努力が必要なため、1人だけで勉強を続けることが大変です。紙教材も同じですが、デジタルにおいても、今はまだ、それだけでは学習を続けることに不安を持つ人が多いのだと思います」。

■今後の課題はデジタルと紙のシームレス化

 一方で、インターネットを利用できるデジタル教材には、顧客に対するサービスを向上させる利点もある。「オンラインで繋がっていれば、お客様の学習の進捗状態がわかります。それほど学習が進んでいなかったら、こちらから働きかけることができ、お客様が止まる比率が多い箇所がわかれば、教材を見直すことも考えられます。デジタル教材を使うことは、お客様ご自身の問題だけでなく、私どもの問題も含め、解析するためのデータを集積することができ、よりお客様が学びやすいアドバイスやシステムを開発するうえで優位だと思います」。

 そのため、今後は「ネットを通じたサービスがいかにお客様の役に立つかをきちんと分析して、我々のサービスに取り入れるべきものは取り入れることが大切」と冨山氏。

 「パソコンの黎明期にeラーニングがキラーコンテンツになると言われていましたが、パソコンが普及しても、そうはなりませんでした。同じようにEdTechという仕組みを作ったからといって、それだけで学びの効率がよくなるわけではないと思います。お客様がアクセスしてくれないことにはこちらからアプローチすることはできませんからね。

 ただ、使い方さえきちんとすれば、EdTechは非常に便利であることは事実です。ですから、当社としては今後お客様がより学びやすく、続けやすく、効率的に勉強できるデジタルと紙教材をシームレスにした仕組みを研究中です」。

 1人で行う通信講座にとって学習を続ける力となるのは、人によるサポートだ。同社にはオリコンの調査において「わからないことはメールで質問したが、回答が迅速で安心して学習できた」(60代/男性/通信講座 FP)、「とにかく質問しまくったが、非常にわかりやすく回答していただき、疑問点を持ち越さずに済んだ」(40代/女性/通信講座 FP)など、問い合わせのしやすさやサポート体制を評価する声が多数寄せられている。

 テストや教材の提供など一方通行になってしまうケースが多いeラーニングと違い、EdTechは双方向性でコミュニケーションがとれるという利点はある。だが、継続率が低いなどの課題をクリアし、顧客が満足するサービスとして活用するためには、コンテンツの内容や提供方法などまだまだ企業努力が必要な様子。全ての教育業界がデジタルに置き換わるのは、もう少し先になりそうだ。

(文:河上いつ子)

【調査概要】
調査時期:2018年4月9日(月)~6月6日(水)
調査対象:合計1037名(18歳以上の男女)
調査地域:全国
調査方法:インターネット調査 (オリコン顧客満足度調べ)
記事提供:オリコンNewS
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