06/14 18:33

公称168センチ。
チーム一の小柄な男が、振り向きざまに右足を振り抜いた。
ボールはきれいな弾道を描き、ネットに突き刺さった。
ベテラン森島寛晃選手(30)は若い選手たちにもみくちゃにされ、小さな体が見えなくなった。
後半、投入された直後の出来事。
中だるみ気味だった長居陸上競技場のスタンドが沸き上がった。
「モリシ」と呼ばれる地元Jリーグ2部(J2)セレッソ大阪の人気者。
穏やかな人柄と愛想の良さで「日本一腰の低いJリーガー」と愛されている。
8歳で広島市の強豪、大河FCに入った。
ゴールに向かってひたすらボールを追う。
練習も試合も絶対に手を抜かなかった。
長距離を走る練習で、仲間が「きょうはゆっくり行こうや」と誘っても全力で駆け抜け、一番でゴールした。
「将来は代表入りするよ」。
当時、FCの先輩で元日本代表木村和司さん(43)はそう直感した。
「ボールが常に体から離れない。
パスやドリブルのセンスもよかった。
試合の流れを読んだ動きは今も変わらない」FC時代からの親友、武田直人さん(29)は「このボールがつながればチャンスになる、という所に必ずモリちゃんがいた」と話す。
東海大一高を経て日本リーグのヤンマーに入社。
木村さんの予言通り1995年5月、代表デビューを果たした。
98年フランス大会もメンバー入りしたが、対クロアチア戦で12分出場しただけ。
その時のユニホームは大河FCの監督、浜本敏勝さん(57)に「先生のおかげでW杯に出られました」とプレゼントした。
今回も先発出場はない。
ロシア戦の後、心情を気遣って浜本さんが電話すると「まだ出るチャンスがあります」と力強かった。
浜本さんは「夢は持ち続けるべきですね」と目頭を熱くする。
ゴールを決めたユニホームは、また恩師の元に届けられるだろう。

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