ママが挑む大舞台5 女子マラソンのポーラ・ラドクリフ(英国)

昨秋にモナコで開催された国際陸連(IAAF)の年間表彰式に出席した女子マラソン世界記録保持者のポーラ・ラドクリフ(英国)は、冗談交じりにこう言った。「五輪へ向けた高地トレーニングの場所を選ぶ上での決め手はベビーフードが手に入るかどうかね。娘にいつもと同じものを食べさせたいから」
昨年1月にアイラちゃんを出産。コーチでもある夫のゲーリー・ラフさん(37)との二人三脚に幼い長女が加わり、途中棄権したアテネ五輪の雪辱を期す北京は家族一丸での挑戦となる。
マラソンは母親となった後も第一線で活躍を続ける選手が多い。1980年代の名選手、イングリッド・クリスチャンセン(ノルウェー)は長男を出産後の85年に2時間21分6秒の世界最高記録(当時)を樹立した。出産を経験したことによる生理的変化がプラスに働くとの説もあるが、同選手は「子供を産んだ幸福感が何よりの後押しだった」と述懐している。
2時間15分25秒の世界記録を持つラドクリフは復帰へ向けた練習中に骨盤の中央にある仙骨にひびが入り、足踏みを余儀なくされた。長時間に及ぶ難産の影響という。だが苦労を味わっても「(出産は)それを超える価値があった」と軽やかに乗り越え、昨年11月のニューヨークシティー・マラソンで見事に優勝を飾った。
約2年ぶりに走ったマラソンの終盤は、リズムを保つために「アイ・ラブ・アイラ」と呪文(じゅもん)のように唱えながら走ったという。ゴール後はまな娘を抱き、観衆の祝福に満面の笑みで応えた。感動のシーンが北京でも再現されるか。

戻る