「摘発の舞台裏 ドーピング」北京での摘発に注目 ヒト成長ホルモン

禁止薬物の使用を告白してシドニー五輪で獲得した5個のメダルを返還した陸上女子のマリオン・ジョーンズ元選手(米国)は、160回を超す検査でも違反が摘発されなかった。新薬物の登場との「いたちごっこ」と表現される取り締まり。多種の薬物が出回る中、関係者が最も懸念するのがヒト成長ホルモン(HGH)のまん延だ。
筋肉増強効果があるHGHの検査が初めて導入されたのは4年前のアテネ五輪。しかし実際に検出された例はまだ1件もない。新たに開発された検査器具でチェックする北京五輪で、違反を摘発できるかが注目される。
1990年代から広まったといわれるHGHについて、世界反ドーピング機関(WADA)のラバン科学部長は「現在かなり広い範囲で使われていることは明白だ」と表情を曇らせる。ハウマン事務総長も「オーストラリアでHGHを違法販売していた業者が警察に摘発され、顧客リストから何人もの選手が見つかっている」と実態を裏付けた。
状況を憂慮したWADAは06年トリノ五輪直後、欧州の医療品メーカーと提携してHGH検出のための新たな検査器具の研究に着手した。ラバン部長は「検出のメカニズム自体は同じだが、試薬に改良を加えるなどより進歩した検査キットが誕生した」と説明する。また、これとは異なる理論で検出する方法も開発が最終段階に入っており、両者を組み合わせることで検査の精度は大幅にアップするという。
HGHは体内に痕跡が残る期間が非常に短く、競技以前のトレーニング段階で使われるため、摘発が困難だった。だがハウマン事務総長は「これまでHGHを使って逃げ通せてきた選手たちは、北京でも同じだとは考えない方がいい」と警告している。

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