勝利を呼び込む神通力
苦境乗り越え成長した川口

大舞台で逆境に立つほど、集中力を研ぎ澄まし、真価を発揮する。歴史に刻まれた1996年アトランタ五輪のブラジル戦、美技を連発した2000年アジアカップ決勝のサウジアラビア戦…。小学生時代からGK一筋の川口能活(ポーツマス)は、勝利を呼び込む不思議な「神通力」を持ち合わせた守護神だ。
ただ、この4年間は挫折の連続だった。トルシエ監督に「安定感の欠如」を指摘され、不動の地位は揺らいだ。「戦いに行く」と海を渡ったイングランドでは大量失点を機にスケープゴートにされ、2軍生活の孤独な日々が待っていた。さらにクラブの退団勧告。逆境に強い精神力を自負する26歳の男にとって、初めて体験する屈辱だった。
だが、川口は現実を正面から受け止め、自力で苦境を乗り越える。3月のポーランド戦は長いブランクを懸念されながら、90分間を完封。その後、左ひざの靱帯(じんたい)を痛め、実戦感覚の不安は募るが、2度目のワールドカップ(W杯)を見据えて「技術、戦術よりも、最後は戦う気持ちが大切」と燃える。
身長は180センチに届かず、GKとして恵まれた体格ではない。それでも、日本代表でトップレベルの跳躍力とダッシュ力が守備範囲の広さを支える。味方にピタリと合わせるフィードの正確さも隠れた武器だ。
「海外に出て周囲に寛大な心を持てるようになった。それはGKの仕事で必要なこと」。そんな人間的な成長を感じさせる守護神にトルシエ監督は背番号「1」を与えた。

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