ｴﾑﾎﾞﾏ(ｶﾒﾙｰﾝ)
ｱﾌﾘｶ旋風の担い手､大陸初のW杯制覇目指す
｢今の代表ﾁｰﾑはｶﾒﾙｰﾝ史上最強だ｣と､ﾊﾟﾄﾘｯｸ･ｴﾑﾎﾞﾏは言った｡1990年ﾜｰﾙﾄﾞｶｯﾌﾟ(W杯)ｲﾀﾘｱ大会でｱﾌﾘｶ勢初の8強入りを果たし､旋風を巻き起こしたｶﾒﾙｰﾝ｡その当時よりも､現代表は強いと言う｡相当な自信である｡
▽復活の中心
90年W杯の後､沈滞気味だった｢不屈のﾗｲｵﾝ｣は､2000年に復活ののろしを上げた｡その中心にｴﾑﾎﾞﾏがいた｡
この年2月のｱﾌﾘｶ選手権は準決勝で2点､決勝で1点を挙げて優勝に貢献した｡ｼﾄﾞﾆｰ五輪はｵｰﾊﾞｰｴｰｼﾞ(24歳以上)枠で出場し､5試合で4得点の大爆発｡ｽﾍﾟｲﾝに2-2からPK勝ちした決勝では､2点ともに絡んで初の金ﾒﾀﾞﾙに花を添えた｡同年のｱﾌﾘｶ最優秀選手にも選ばれた｡
今年のｱﾌﾘｶ選手権でも､準々決勝を最後に負傷で戦列を離れるまで､4試合中3試合あった1-0の辛勝はすべてｴﾑﾎﾞﾏが決勝点をﾏｰｸ｡連覇の立役者となった｡
2歳半の時に一家でﾊﾟﾘ近郊に移住し､二重国籍を取得したﾌﾗﾝｽ育ち｡情報ｻｰﾋﾞｽ業を営む父はｱﾏﾁｭｱのGKだった｡2歳上の兄もｻｯｶｰ好きで､いつしか一緒にﾌﾟﾚｰしていた｡ﾌﾟﾛ選手への夢を膨らませ､9歳でﾊﾟﾘ近郊の小ｸﾗﾌﾞに入った｡
学校の成績も良く､特に数学が得意でﾊﾟｲﾛｯﾄへのあこがれもあった｡銀縁眼鏡を掛けた私服姿や温厚な語り口には､知的な雰囲気がある｡
▽日本で開花
19歳の時にﾌﾗﾝｽの強豪ﾊﾟﾘ･ｻﾝｼﾞｪﾙﾏﾝ(PSG)に誘われ､ﾌﾟﾛへの第一歩を記した｡しかし､3部のﾁｰﾑなど他のｸﾗﾌﾞに貸し出され､PSG復帰後もついに一軍には定着できなかった｡ｶﾒﾙｰﾝ代表入りも､25歳の1995年12月｡次の代表試合出場はほぼ1年後｡晩成型のｻｯｶｰ選手だ｡
転機とな?たのは､97年のｶﾞﾝﾊﾞ大阪入りだ｡｢正直言って､お金のためでもあった｣と率直だが､出場機会を求めた新天地で､才能が開花した｡
1年目にｽｰﾊﾟｰｺﾞｰﾙを連発して25点をﾏｰｸ､得点王に輝いた｡｢浪速の黒ﾋｮｳ｣と呼ばれて人気者となり､98年W杯後にｶﾘｬﾘ(ｲﾀﾘｱ)入りすることも決まった｡｢ｻｯｶｰ以外の面でも､新しい文化に触れて成熟し､人間の幅を広げられた｡日本行きはﾗｯｷｰだった｣と振り返る｡
▽ｱﾌﾘｶの代表
もっとも､初のW杯となった98年大会は守備的MFの中心選手が大会前に骨折し､ｴﾑﾎﾞﾏは最初の2試合､苦肉の策で慣れない代役を任された｡自己犠牲のﾌﾟﾚｰも実らず1得点で1次ﾘｰｸﾞ敗退と､不完全燃焼に終わった｡
ｶﾘｬﾘでは､今もｲﾀﾘｱにはびこる観客の人種差別的なやじを浴びてﾌﾟﾚｰした｡だからだろうか､国というよりｱﾌﾘｶの代表として戦い､実力で世界に存在を認めさせるとの決意がにじみ出る｡
今度のW杯では｢自分のｺﾞｰﾙが目標ではない｡ﾁｰﾑのため､自分の国を幸せにするため､そしてｱﾌﾘｶのために全力を尽くしたい｣ときっぱり｡ｱﾌﾘｶ旋風の担い手ｴﾑﾎﾞﾏは､もちろん本気でｱﾌﾘｶ初のW杯制覇を狙っている｡(共同=名取裕樹)
戻る
');?>