ﾋｰﾛ伝説

ﾗｳﾙ(ｽﾍﾟｲﾝ)
W杯は雪辱の舞台､輝くかｽﾍﾟｲﾝの至宝

今年が創設百周年｡国内ﾘｰｸﾞ優勝28度､欧州ﾁｬﾝﾋﾟｵﾝｽﾞﾘｰｸﾞ制覇8度はともに史上最多｡首都の貧しい地区に生まれ育った生粋のﾏﾄﾞﾘｰﾄﾞっ子､ﾗｳﾙは､そんな栄光に包まれた名門ﾚｱﾙ･ﾏﾄﾞﾘｰﾄﾞのｼﾝﾎﾞﾙである｡
▽最年少ﾃﾞﾋﾞｭｰ
電気工の父ﾍﾟﾄﾞﾛさんは､労働者の人気を集めたﾚｱﾙの宿敵ｱﾄﾚﾁｺ･ﾏﾄﾞﾘｰﾄﾞをひいきにしていた｡｢母親の胎内にいるときから､ﾎﾞｰﾙをけっていたのじゃないか｣と冗談めかす三男坊のﾗｳﾙは､ﾏﾗﾄﾞｰﾅ(ｱﾙｾﾞﾝﾁﾝ)をｱｲﾄﾞﾙにｻｯｶｰに熱中､13歳で迷うことなくｱﾄﾚﾁｺのﾕｰｽﾁｰﾑに入った｡
ところが､15歳の時に育成部門が経費削減を理由に廃止された｡ﾗｳﾙはそれまで｢お高くとまっている｣と嫌っていたﾚｱﾙの門をくぐる｡これがｽﾀｰへの第一歩だった｡
ﾌﾟﾛ予備軍の3軍でﾌﾟﾚｰしていた時にﾄｯﾌﾟﾁｰﾑのﾊﾞﾙﾀﾞｰﾉ監督の目に留まり､1994年10月の同国1部ﾘｰｸﾞ､ｻﾗｺﾞｻ戦で先発を言い渡された｡17歳4ｶ月は､ｸﾗﾌﾞの一軍ﾃﾞﾋﾞｭｰ最年少記録となった｡
▽古豪復活
以来､細身の体と甘いﾏｽｸの若武者は得点を積み重ね､古豪復活の原動力となった｡このｼｰｽﾞﾝ､5年ぶりにﾘｰｸﾞ制覇を果たすとその後も2度優勝し､ﾗｳﾙは得点王に2度輝いた｡98年にはﾁｬﾝﾋﾟｵﾝｽﾞﾘｰｸﾞを32年ぶりに制し､2000年にも8度目の栄冠を獲得｡ﾄﾖﾀｶｯﾌﾟも手にした｡
左足のｼｭｰﾄは技巧的で､ｺｰｽを正確に突いてﾈｯﾄを揺らす｡と同時にﾁｰﾑﾌﾟﾚｰに徹し､ｱｼｽﾄもいとわない｡
そんなﾗｳﾙに唯一欠けるもの､それはｽﾍﾟｲﾝ代表での栄光だ｡
96年ｱﾄﾗﾝﾀ五輪で8強入りし､同年10月に19歳でﾌﾙ代表に初招集された｡94年から97年まで国際Aﾏｯﾁ31試合負けなしで｢無敵艦隊｣とも呼ばれた代表のﾎｰﾌﾟとして､98年ﾜｰﾙﾄﾞｶｯﾌﾟ(W杯)ﾌﾗﾝｽ大会に臨んだ｡
▽土壇場での弱さ
ところが､初戦のﾅｲｼﾞｪﾘｱ戦はﾗｳﾙの得点などで2-1とﾘｰﾄﾞしながら2-3の逆転負け｡狂った歯車は元に戻らず､1次ﾘｰｸﾞで姿を消した｡
2年後の欧州選手権では準々決勝で世界王者ﾌﾗﾝｽと対戦｡1-2で迎えた終了直前に得たPKを､ﾗｳﾙはﾊﾞｰの上を越すﾐｽｷｯｸで失敗し､絶好の同点機を逃して敗退した｡
ｸﾗﾌﾞでは常に脚光を浴び､称賛を得ている華やかな選手が､代表では勝利に貢献できない｡土壇場での精神面の弱さを指摘されるなど､ｽﾍﾟｲﾝの中心選手になって初めて痛烈な批判も受けた｡それだけに､今回のW杯は個人的にも雪辱の場となる｡
｢あの苦いPK失敗は過去のこと｡次のW杯は､前回大会と欧州選手権の経験を生かして､より強い代表でありたいし､より成長したﾗｳﾙでありたい｣と熱っぽく強調すると､こう付け加えた｡｢今回の代表ﾁｰﾑはすごい可能性を秘めている｡(優勝を含む)どんな結果だってあり得ると思っている｣
ｽﾍﾟｲﾝの至宝が､大舞台で輝きを増して世界の至宝となれるか｡(共同=名取裕樹)

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