ﾋｰﾛ伝説

ｸﾚｽﾎﾟ(ｱﾙｾﾞﾝﾁﾝ)
世界有数の万能型FW ﾊﾞﾃｨから定位置奪う

ｱﾙｾﾞﾝﾁﾝ代表の名選手を数多く輩出してきた首都ﾌﾞｴﾉｽｱｲﾚｽの強豪ﾘﾊﾞｰﾌﾟﾚｰﾄ｡その育成部門に6歳で入団したｸﾚｽﾎﾟは､下部組織でも芽が出なかった18歳の時､突然一軍に抜てきされてﾘｰｸﾞ戦にﾃﾞﾋﾞｭｰした｡
1993年11月のことだった｡このｼｰｽﾞﾝ､25試合で13得点と､次代を担うﾎｰﾌﾟに名を連ねた｡
決して才能に恵まれていたわけではない｡ﾘﾊﾞｰﾌﾟﾚｰﾄではｽｰﾊﾟｰｻﾌﾞとしての起用が多く､監督が代わるとﾍﾞﾝﾁを温めていた不遇の時期もある｡｢向上するには一生懸命やる､がﾓｯﾄｰ｣の言葉通り､努力と練習で世界有数のFWに成長した｡
▽ｾﾘｴAの得点王
昨季はｲﾀﾘｱ1部ﾘｰｸﾞ(ｾﾘｴA)得点王｡世界一守りの厳しいｾﾘｴAで26得点は特筆に値する｡
その内訳は､頭とPKの計5点を除くと､利き足の右足で12点に左足で9点｡両足のｼｭｰﾄ力にほとんど差がない万能の得点能力を物語っている｡
ﾊﾞﾃｨｽﾄｩｰﾀのような強烈なﾊﾟﾜｰやｶﾘｽﾏ性は感じさせない｡見た目も発言もさわやかな優等生ﾀｲﾌﾟだ｡だが常にｼｭｰﾄを狙い続けるｺﾞｰﾙへの執念を､ｲﾀﾘｱ代表GKのﾌﾞﾌｫﾝは｢最も嫌なFW｣との言葉で評価する｡
▽ﾗｲﾊﾞﾙは英雄
転機は96年に訪れた｡ﾘﾍﾞﾙﾀﾄﾞｰﾚｽ杯(南米ｸﾗﾌﾞ選手権)決勝第2戦で逆転の2得点をﾏｰｸ､南米王座に就いてﾊﾟﾙﾏ(ｲﾀﾘｱ)に移籍した｡ｱﾄﾗﾝﾀ五輪では初の世界大会を経験､6点を挙げて得点王となり､銀ﾒﾀﾞﾙを獲得した｡
五輪の次の夢は､いよいよﾜｰﾙﾄﾞｶｯﾌﾟ(W杯)だ｡しかし､代表のｾﾝﾀｰﾌｫﾜｰﾄﾞには実力､人気とも抜群の国民的英雄ﾊﾞﾃｨｽﾄｩｰﾀがいた｡98年W杯ﾌﾗﾝｽ大会の南米予選半ばからｸﾚｽﾎﾟがﾊﾞﾃｨｽﾄｩｰﾀに代わって先発起用されると､国内では批判も出た｡
もっとも､ｸﾚｽﾎﾟは本番1ｶ月前に負傷し､初のW杯は途中出場で52分間ﾌﾟﾚｰしただけに終わった｡
99年にはﾊﾟﾙﾏの欧州連盟(UEFA)ｶｯﾌﾟとｲﾀﾘｱ杯優勝に貢献する｡ｲﾀﾘｱ杯決勝の相手は､ﾊﾞﾃｨｽﾄｩｰﾀがいたﾌｨｵﾚﾝﾃｨﾅだった｡2000年夏には､ｸﾚｽﾎﾟが当時史上最高の移籍金1100億ﾘﾗ(当時約59億円)でﾗﾂｨｵに加入し､ﾊﾞﾃｨｽﾄｩｰﾀは同じ首都の宿敵ﾛｰﾏに移籍｡これが､周囲のﾗｲﾊﾞﾙ視を一層あおり立てた｡
▽予選でも最多得点
98年W杯後に就任した代表のﾋﾞｴﾙｻ監督は､2000年3月に始まったW杯南米予選でやはりﾊﾞﾃｨｽﾄｩｰﾀを先発に起用した｡だが､ｸﾚｽﾎﾟが前回同様に取って代わり､ﾁｰﾑ最多の9得点を挙げた｡今や､ｸﾚｽﾎﾟ優位が大方の見方だ｡
4歳だった79年､ﾏﾗﾄﾞｰﾅ率いるｱﾙｾﾞﾝﾁﾝが優勝した日本での世界ﾕｰｽ大会を､朝の4時から父親とﾃﾚﾋﾞ観戦していた｡｢今度は日本で､W杯優勝を実現させたい｣｡3度目の制覇が､経済危機にあえぐ国民にとっての何よりの喜びとなることも､十分に自覚している｡(共同=名取裕樹)

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