ﾌﾗﾝｽ(ｼﾞﾀﾞﾝ)
路地裏で覚えたﾃｸﾆｯｸ､ﾕﾍﾞﾝﾄｽで世界に飛躍
｢ﾎﾞｰﾙに生命を与えるかのような技術はどこで覚えたのか｣｡こう聞かれたｼﾞﾀﾞﾝは｢子供のころ路地裏で｣と答えた｡相手をあざ笑うかのような自在な体さばきとﾎﾞｰﾙ扱い｡後ろにも目があるような的確な状況判断｡そして､一本で相手の急所をえぐるﾊﾟｽ…｡ﾙｰﾂは南ﾌﾗﾝｽ･ﾏﾙｾｲﾕの近郊で過ごした少年時代にさかのぼる｡
ｼﾞﾀﾞﾝ自身が｢住んでいたのは貧困地区｣と言うｶｽﾃﾗｰﾇ｡そこは｢何か人に勝つものが必要で､自分は5､6歳のころには学校のことを忘れｻｯｶｰに熱中していた｣思い出の街だ｡少年時代にﾁｰﾑﾒｰﾄだったことのあるｱﾄﾞﾙｲｱﾐﾇさんは｢彼のﾌﾟﾚｰは誰にもまねができなかった｡戦術眼もほかのみんなとは段違いだった｣と今も驚きを込めて言う｡
▽あくなき向上心
“遊び"の中で培われた才能はﾌﾟﾛのｸﾗﾌﾞでさらに磨かれていった｡88年､親元を離れｶﾝﾇ入り｡2年後には当時1部ﾘｰｸﾞだった同ﾁｰﾑの1軍でﾚｷﾞｭﾗｰとなり､92年にはﾎﾞﾙﾄﾞｰへ｡96年､ﾎﾞﾙﾄﾞｰの欧州連盟(UEFA)ｶｯﾌﾟ準優勝の原動力となり､翌季からｲﾀﾘｱのﾕﾍﾞﾝﾄｽのﾕﾆﾎｰﾑを着ることになった｡
この欧州屈指の名門ﾁｰﾑが､ｼﾞﾀﾞﾝを世界ﾚﾍﾞﾙに飛躍させた｡それまでとはけた違いのﾊｰﾄﾞな練習､ﾘｰｸﾞ戦､ｶｯﾌﾟ戦とほぼ3日おきに続くﾊｲﾚﾍﾞﾙな試合｡ｼﾞﾀﾞﾝ自身が振り返る｡｢ﾃｸﾆｯｸそのものは前から持っていたと思う｡でもﾕﾍﾞﾝﾄｽではそれをどう使うのか､いつ使うのか､なぜ使うのかを学んだ｡課題とその克服の繰り返しの中でｲﾝﾃﾘｼﾞｪﾝｽを身に付けた｣
97､98年のﾘｰｸﾞ連覇､98年W杯､2000年欧州選手権｡ｲﾀﾘｱでの5年間で､ｼﾞﾀﾞﾝはｸﾗﾌﾞ､代表でほとんどの栄誉を得た｡それでもまだ向上することをやめない｡｢ﾚｱﾙ･ﾏﾄﾞﾘｰﾄﾞは理想的なﾁｰﾑ｡まだ取っていない欧州ﾁｬﾝﾋﾟｵﾝｽﾞﾘｰｸﾞを狙う意味もあるし､何よりﾌｨｰｺﾞ､ﾗｳﾙらという人材を得てﾌﾟﾚｰの幅が広がっている｣
▽家族とのきずな
ﾏﾙｾｲﾕ､ﾌﾗﾝｽ､欧州､世界と活躍の舞台を広げるｼﾞﾀﾞﾝにとってｻｯｶｰの地平は無限だ｡ただ､ｼﾞﾀﾞﾝがここまでのｻｸｾｽ･ｽﾄｰﾘｰの要因として常に挙げるのが｢家族とのきずな｣｡ﾎﾞﾙﾄﾞｰ時代のﾗﾊﾞ･ｺｰﾁは｢彼は何よりもまず安心や安定を求める｡それも妻のﾍﾞﾛﾆｸさんや子供たちといることで｡秘めた野心はそれがあって初めて最大限に表現されるんだ｣と語る｡
ｼﾞﾀﾞﾝは｢今はｻｯｶｰ選手で有名人で､お金も稼いでいる｡でも自分の生きてきた道は決して忘れない｣と言う｡｢欲しい物も手に入らない｡“ｷﾚ"ていてもおかしくない環境だった｣ﾏﾙｾｲﾕ時代｡そうならなかったのは両親のおかげだと思っている｡｢両親が教えてくれた他人への尊敬の気持ちを､今は同じやり方で自分の子供に伝えようとしている｣と､W杯期間中の6月に30歳になるｼﾞﾀﾞﾝは言う｡こうした人生観を聞いていると､ｼﾞﾀﾞﾝが単なるｻｯｶｰのｽﾀｰ選手の枠を超えた人気を集めている理由が分かってくる｡(共同=松村圭)
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