ﾋｰﾛ伝説

ｵｰｳｪﾝ(ｲﾝｸﾞﾗﾝﾄﾞ)
世界有数の万能型FW､ﾊﾞﾃｨから定位置奪う

前線でｺﾞｰﾙを狙うｽﾄﾗｲｶｰには､大柄な選手が多い｡ｵｰｳｪﾝは175ｾﾝﾁ､67ｷﾛと体格では劣っている｡しかし､十代のころから周囲の期待に応え､鍛え上げられた体内にはそれを補って余りある瞬発力と判断力が秘められている｡
｢ﾍﾟﾅﾙﾃｨｰｴﾘｱの中なら､どんなときでもｼｭｰﾄﾁｬﾝｽを狙っている｡それが僕のｻｯｶｰｽﾀｲﾙさ｣｡ｲﾝｸﾞﾗﾝﾄﾞの点取り屋は自らの哲学を語った｡
▽ﾜﾝﾀﾞｰﾎﾞｰｲ
ﾏｰｼﾞｰ湾を挟んで､ﾘﾊﾞﾌﾟｰﾙの対岸に位置するﾁｪｽﾀｰで産声を上げた｡ｲﾝｸﾞﾗﾝﾄﾞ･ﾘｰｸﾞの名門ﾘﾊﾞﾌﾟｰﾙのﾕｰｽで鍛えられ､その才能は早くから注目されていた｡
九八年二月に､二十世紀のｲﾝｸﾞﾗﾝﾄﾞ代表最年少の十八歳五十九日でﾋﾟｯﾁに立ち､五月には最年少初ｺﾞｰﾙも記録した｡この年､ﾌﾟﾛ選手として初めてｼｰｽﾞﾝを戦ったﾌﾟﾚﾐｱﾘｰｸﾞでも18ｺﾞｰﾙで得点王､最優秀選手にも選ばれた｡ｵｰｳｪﾝ株は急上昇した｡
そして､九八年W杯ﾌﾗﾝｽ大会｡ｵｰｳｪﾝは晴れ舞台で世界を驚かせるﾌﾟﾚｰを見せたのだった｡ｽﾋﾟｰﾄﾞあふれるﾌﾟﾚｰで1次ﾘｰｸﾞのﾙｰﾏﾆｱ戦でW杯初得点｡さらに決勝ﾄｰﾅﾒﾝﾄ1回戦のｱﾙｾﾞﾝﾁﾝ戦では､大会の印象深いｼｰﾝのひとつに挙げられたｺﾞｰﾙを決めた｡高速ﾄﾞﾘﾌﾞﾙから守備陣を風のようにかわしてのｺﾞｰﾙでｽﾀｼﾞｱﾑを沸かせた｡
｢ﾜﾝﾀﾞｰﾎﾞｰｲ｣(驚くべき少年)｡その異名は世界に知れ渡ることとなった｡
▽大一番の男
地元記者は､ｵｰｳｪﾝのﾌﾟﾚｰの特長を｢縦方向のうまさ｣という｡横への動きで相手守備を揺さぶることのうまい選手は多いが､縦への瞬間的な突破に､しかも時にはDFを引きずりながら前へ加速するｽﾀｲﾙは､圧巻だ｡目を見張るようなﾌｧｲﾝｼｭｰﾄよりも､ﾍﾟｰｽを変えながら､ｺﾞｰﾙ前に突き進んでからの泥臭いｺﾞｰﾙが多いのも特長といえる｡
そのﾌﾟﾚｰはけがとのもろ刃のやいばでもあった｡ｽｰﾊﾟｰｽﾀｰへの階段を確実に登っていく一方で､常に全力ﾌﾟﾚｰを心掛けるあまり､太ももやふくらはぎを痛めて長期離脱することも目立った｡
それでも最も重要な場面で､ｵｰｳｪﾝはきっちりと仕事をこなした｡
昨年九月一日｡敵地ﾐｭﾝﾍﾝでの欧州予選だった｡負ければ宿敵ﾄﾞｲﾂの予選突破が決まってしまう試合で､ﾊｯﾄﾄﾘｯｸを達成し､5-1の歴史的勝利に貢献した｡
ｲﾝｸﾞﾗﾝﾄﾞのW杯出場決定は十月六日のｷﾞﾘｼｬとの最終戦で､主将のMFﾍﾞｯｶﾑがﾛｽﾀｲﾑにけり込んだ同点FKが語り草になっているが､ﾁｰﾑを勢いづかせたのは､間違いなくﾄﾞｲﾂ戦でのｵｰｳｪﾝだった｡
▽若きｷｬﾌﾟﾃﾝ
四月十六日のﾊﾟﾗｸﾞｱｲとの親善試合で､ｵｰｳｪﾝは主将のｱｰﾑﾊﾞﾝﾄﾞを腕に巻いた｡左足甲を骨折したﾍﾞｯｶﾑに代わって､ｴﾘｸｿﾝ監督が選んだのがこのｽﾄﾗｲｶｰだった｡｢若く､才能に恵まれ､人気は最高｣｡同監督は端的な言葉で選考理由を語った｡
二十二歳の代表主将は､六六年W杯優勝ﾁｰﾑのﾎﾞﾋﾞｰ･ﾑｰｱ以来｡ﾍﾞｯｶﾑの回復が遅れれば､本番でも主将の大役を務める可能性はある｡ｵｰｳｪﾝは｢いつも通りのﾌﾟﾚｰをするだけさ｡若いということは何でもできることだし､改善の余地もある｣｡獲物を狙うﾗｲｵﾝのように､ﾋﾟｯﾁを駆けめぐることだろう｡(共同=江波和徳)

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