06/04 21:13
思い焦がれたタッチラインの向こう側に、やっと立った。
4日、ベルギー戦に先発した日本代表のMF市川大祐選手(22)。
4年前のW杯フランス大会はベンチに座ったが、ピッチは果てしなく遠かった。
今回は「自分の力でつかんだ」と胸を張れる。
攻めに守りに90分間フル出場。
右サイドを存分に走り回った。
「ピッチに入った時は、ぞくぞくした。
でも、小さくなってもしょうがないので、自信を持って強気に行った」。
試合後の表情は満足感にあふれていた。
18歳、高校3年生で臨んだフランス。
直前のスイス合宿で三浦知良(カズ)、北沢豪の両選手とともに落選した。
当時の監督岡田武史さん(45)に「残るか」と聞かれた。
チーム最年少。
少しでも勉強になればと思い「お願いします」と答えた。
スタッフ用のIDカードを渡されチームに同行。
初出場で、世界を相手にもがき苦しむ日本の3戦をベンチから眺めた。
「タッチラインひとまたぎなんだけど、ピッチはすごく遠く感じた。
連れてってもらっただけ。
緊張ばかりで、居場所もなかった」静岡県清水市生まれ。
4人兄弟の末っ子は「男はみなサッカー」という土地柄の中で、自然にボールをけり始めた。
中学からはJリーグ清水のジュニアユースチームに所属、頭角を現した。
史上最年少の17歳で日本代表に選ばれた。
フランスから帰り「Jリーグで頑張って2002年を目指そう」と練習に打ち込んだ。
幼いころから、納得するまでやる性格。
そのきまじめさが災いした。
99年初め。
体中がだるい、階段が上れない。
トップレベルのスポーツ選手が陥りやすい「オーバートレーニング症候群」。
休むしかなかった。
両親が温泉に連れていってくれた。
「ナイーブで繊細。
一度リズムを崩すと、きつい」とジュニアユース時代の監督、大石和孝さん(44)。
2000年8月、ようやくG大阪戦でチームの連敗を止めるVゴール。
もやもやしていたものが吹き飛んだ。
大石さんへの報告は、涙で声にならなかった。
復活後の躍進がトルシエ監督の目に止まり、今年3月、同監督下で初めて代表に。
ポーランド戦で活躍し23人に残った。
「4年たってもまた最年少です」と記者会見で照れた。
緊迫のキックオフ直前。
最高のプレーをする自分をイメージして、柔らかな芝生にそっと触れた。
ピッチに流れるW杯の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「ずっとここに居続けたい」。
そう思った。
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