06/14 20:21
168センチ。
チーム一の小柄な男が、振り向きざまに右足を振り抜いた。
ボールはきれいな弾道を描き、ネットに突き刺さった。
ベテラン森島寛晃選手(30)。
若い選手たちにもみくちゃにされ、小さな体が見えなくなった。
後半開始とともに投入され、わずか2分半後の出来事。
中だるみ気味だったスタンドが沸き上がった。
「モリシ」と呼ばれる地元Jリーグ2部(J2)セレッソ大阪の人気者。
穏やかな人柄と愛想の良さで「日本一腰の低いJリーガー」と愛されている。
「思い切ってけったら、いい所に飛んだ。
すごくうれしかったです」。
各国の記者がインタビューするミックスゾーンで、遠慮がちに何度も頭を下げ、はにかんだ。
8歳で広島市の強豪、大河FCに入った。
ゴールに向かってひたすらボールを追う。
練習も試合も絶対に手を抜かなかった。
長距離を走る練習で、仲間が「きょうはゆっくり行こうや」と誘っても全力で駆け抜け、一番でゴールした。
「将来は代表入りするよ」。
当時、FCの先輩で元日本代表木村和司さん(43)はそう直感した。
「ボールが常に体から離れない。
パスやドリブルのセンスもよかった。
試合の流れを読んだ動きは今も変わらない」東海大一高を経て日本リーグのヤンマーに入社。
木村さんの予言通り1995年5月、代表デビューを果たした。
98年フランス大会もメンバー入りしたが、対クロアチア戦で11分出場しただけ。
その時のユニホームは大河FCの監督、浜本敏勝さん(57)に「先生のおかげでW杯に出られました」とプレゼントした。
浜本さんは昔から子供たちに「大きな大会では必ずラッキーボーイが出るんだ」と話した。
今大会初戦の前、激励電話に森島選手は「先生が言っていたように、ラッキーボーイになりますよ」と笑いながら誓った。
約束を果たした教え子に、浜本さんは「夢は持ち続けるべきですね」と目頭を熱くした。
ゴールを決めたユニホームは、また恩師の元に届けられるのだろう。
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