06/11 09:03
華やかなサッカーのワールドカップ(W杯)応援の場を流血の舞台に変えたモスクワでの騒乱。
多数のサポーターがフーリガン(暴力的なファン)化し、日本人も被害に。
最大の原因は、騒乱防止のための配慮がなされず警備も手抜きだったことにあるが、背景には変化するロシア社会に適応できない若者の不満があるといえそうだ。
フーリガン化したのは大半が10代後半から20代前半の若者たちだ。
モスクワ・ニュース紙で教育問題を担当するスコロボガチコ記者は「自らが必要とされていないという気持ち、社会的な階層が生まれている状況」が若者を自暴自棄にさせていると指摘する。
ロシア社会はソ連崩壊後、極端に豊かな「新ロシア人」と大半の貧しい国民に“分断"されてしまった。
モスクワなど大都市では若者の就職率は悪くないが、高給で魅力的な仕事は新ロシア人や政府高官の子息に占められてしまう。
多くの若者は「社会からの疎外感」を味わっており、きっかけがあれば暴発する危険があった。
これに加え、手薄な警備が騒乱を誘発した。
今回のW杯で、国民の関心が急上昇したのは5日のチュニジア戦でロシアが勝利してから。
それまでは主力選手の故障や監督への批判が相次ぎ1次リーグ突破を疑問視する声すらあった。
しかし初戦勝利でソ連崩壊後初めての決勝トーナメント進出が現実味を帯びてきた。
日本戦後半のテレビ視聴率も70%以上を記録した。
警察当局はこうしたフィーバーぶりを見抜けなかった。
当局は当初、騒乱が起きたマネージ広場に集まるサポーターを500人以下と予想、40人余りの警官を配備しただけだった。
しかし実際には5000人以上が集結。
「フーリガン鎮圧は物理的に不可能」(ブレーミャ・ノボスチェイ紙)な状況だった。
フーリガン化防止への配慮も全くなかった。
試合開始前、広場の大型テレビには、男性が野球バットで車のガラス窓をたたき割るコマーシャルが無神経に流され、若者らの興奮をあおった。
ロシアでは2000年以降だけでも、負傷者が出たサッカーファンによる騒乱が4件起きており、同年9月には今回と同様、大型テレビで観戦をしていたファン同士が殴り合いとなり15人が重傷を負った。
今回その教訓は生かされなかった。
(モスクワ共同)
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