08/30 15:05
思い切った作戦だった。
まだ20キロすぎだというのにデリマが一気に先頭集団を飛び出した。
後続との差を25キロで35秒、30キロでは46秒に広げる。
ブラジル勢史上初となるマラソンのメダルへ、しかも金メダルを目指してトップを独走した。
ところが、36キロ付近で信じられないことが起きた。
デリマの左側から1人の男が走り寄り、飛び付いた。
観客で埋まる沿道に押し倒されたデリマは、数秒ほどもみ合い、再スタートを切った。
リードを大きくロスし、ついに38キロ付近でバルディニに抜かれた。
「もし、あそこで飛び付かれていなければ…。
きっと勝っていただろう」さらにケフレジギにもかわされて3位で競技場へ。
35歳のランナーは、アクシデントに見舞われながらも、自分に降り注がれる大声援に投げキスをして応え、誇らしげにゴールした。
「たくさん練習をしたし、銅メダルが取れてうれしい」。
悪びれることなく話したが「あれで崩したリズムを取り戻すのは難しかった」と、やはり胸のつかえは取れない様子だった。
ずさんな警備体制の犠牲になったと言ってもいい。
五輪を締めくくる舞台で「アテネ」は大失態を犯し、無名のランナーの快挙を妨げてしまった。
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