開会式で決死の陳情計画 遺書用意し各国首脳へ
昼間からカーテンを閉め切った北京市内の薄暗いアパートの一室。「五輪開会式で、各国首脳に支援を訴えることが唯一の希望なの」。中国江蘇省鎮江市から人権救済を求め陳情に来た女性(45)が、涙を浮かべた。メーン会場の国家体育場(愛称・鳥の巣)の前で、会場入りする首脳らの注意を引き、何とか陳情の書簡を渡したい。壁は厚く、何が起きるか分からない。夫にあてた遺書を片手に、厳戒態勢の北京で開会日まで拘束されぬよう潜み続けてきた。

「この世でこれ以上悲惨な生活をできません。息子をよろしくお願いします。さようなら」

女性は昨年12月、20年以上勤めていた地元企業から、同僚らとともに突然集団解雇された。抗議すると、会社側は犯罪組織の男らを使って女性を強姦(ごうかん)し、抗議を中止するよう脅迫。女性は夫にも相談できず、地元の警察や陳情部門では相手にされず、遺書をしたため、7月中旬、黙って北京へ出発した。

だが北京では、五輪に向けた治安維持目的で、陳情者の大量拘束が連日行われていた。女性は中央機関への陳情をあきらめ、北京で知り合った陳情者の女性2人と男性1人とともに、4人で部屋を借りて隠れることに。

築数十年のアパートは、打ちっ放しのコンクリートの壁が黒く薄汚れ、床もほこりだらけ。女性3人でダブルサイズのマットレス1つに寝て、男性は廊下にごろ寝だ。昼間から声をひそめ、外で足音がすると縮み上がる。

中国では、身分証明書番号による陳情者のデータベース化が進む。地下鉄駅での荷物検査でも、地方出身者らしき風ぼうの人には身分証提示が求められ、「陳情の過去」があれば、訴えの内容にかかわらず即座に拘束されるという。

「政府は、私たちを完全にテロリスト扱いしている」。あまりの理不尽さに怒りが募る。拘束を警戒し、男性が短時間買い物に出るだけで、女性3人は1歩も外出せずに、2週間以上が過ぎた。

開会式での陳情のため、ブッシュ米大統領や福田康夫首相あての公開書簡をしたためた。「中国では一般民衆の人権は全くない。何とか政府に圧力をかけて改善させてください」。(北京、共同)

08月07日(木)17:37
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