聖火フィナーレへ 波乱の4カ月、8日夜点火
3月24日、ギリシャのオリンピック遺跡で採火された五輪聖火は、この4カ月あまり、中国そのものを体現していた。中国を見詰める世界の視線を集め続けた。チベットの人権問題、愛国心の噴出、四川大地震と復興、そして初のチョモランマ(英語名・エベレスト)登頂-。これほど政治にもまれ続けた聖火は前例がない。中国の栄光も異質さも悲惨も表現した聖火は8日夜、北京五輪開会式会場となる国家体育場(愛称・鳥の巣)の聖火台に点火される。
採火式が前途を示していた。式典の最中、パリに本部を置く国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」のメンバー2人が乱入。独立派チベット人は手錠で五輪マークを描いた黒い旗を掲げ「フリーチベット(チベットに自由を)」を叫んだ。
「人権を無視する中国で五輪を開催させてはいけない」(イスタンブールのリレーで抗議行動に参加した男性)
同調する抗議の声は、瞬く間に広がりロンドン(4月6日)、パリ(4月7日)のリレーは大荒れになった。聖火はリレーの途中で消され、車でひっそり運ばれた。
4月9日、北京。国際オリンピック委員会(IOC)の緊急理事会で、聖火リレーの存続が問われた。だが、中国の温家宝首相はロゲIOC会長に「全人類のものである五輪聖火が消えることはないと固く信じている」と詰め寄り、リレーは再び世界を回り始める。
続いて聖火を覆ったのは赤い旗の奔流だった。4月26日、長野市のリレーには中国国旗を持った大勢の留学生が駆けつけ、沿道を埋め尽くした。「ひとつの中国」「チベットに自由を」。留学生とチベット支持者の怒号がこだまする中を、聖火は100人規模の警察官の盾に守られ、おずおずと進んだ。
愛国心の頂点は、チョモランマ登頂だ。5月8日、国家の威信を背負った登山隊が世界最高峰の山頂に聖火を掲げた。
だが、栄光の時は続かない。登頂の4日後に発生した四川大地震は、死者7万人近くという大災害となる。
一切の希望が失われたような悲惨な現場で、被災者を励ますために担ぎ出されたのも聖火だった。
8月4日、四川省綿陽市の最大の避難所となった九洲体育館。フロアや観客席の通路を走るランナーに、被災地から動員された観客が「中国加油(がんばれ)」との大声援を送る。
一方で震源地近くの小さな村にはこの日も、がれきの片付けを続ける姿があった。村人の言葉が被災地の現実をあぶり出す。
「聖火が来るとは知らなかった。歓迎したいが電気がないからテレビで見られない」
聖火は5日、首都北京に到着。故宮、万里の長城など世界遺産をめぐり、中国の悠久の歴史を誇示した。
聖火台への点火は日本時間9日午前零時半ごろとみられる。世界中から激動の中国へと集まったアスリートの躍動を17日間、照らし出す。(共同)
08月08日(金)09:03
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